―「守りたい」と「使わせたい」の板挟み―
中小企業の情報システム部(情シス)は、常に難しい立場に置かれています。
それがいわゆる**「セキュリティジレンマ」**です。
セキュリティを強化すれば業務が止まる。
業務効率を優先すればリスクが高まる。
この相反する要求の狭間で、情シスは日々判断を迫られています。
セキュリティジレンマとは何か
セキュリティジレンマとは、
「安全性を高めるほど利便性が下がり、利便性を高めるほどリスクが増す」
という構造的な矛盾を指します。
例えば、
- パスワードを厳格にすれば、ログインできない問い合わせが増える
- USBや私物端末を禁止すれば、現場の作業が滞る
- VPNを強制すれば、「遅い」「つながらない」という不満が噴出する
どれも「正しい判断」であるにもかかわらず、結果的に情シスが責められやすいのが特徴です。
中小企業の情シスあるある①
「情シス=IT何でも屋」問題
中小企業では、情シスが少人数、場合によっては1人情シスというケースも珍しくありません。
- PCの初期設定
- ネットが遅いという相談
- 業務システムの選定
- セキュリティ事故対応
- なぜかExcelの使い方相談まで
本来は戦略的にITを考えるべき立場でありながら、日常業務に追われ、守りの対応だけで手一杯になりがちです。
その結果、「本当は危ないと分かっているが、止められない」という妥協が積み重なっていきます。
中小企業の情シスあるある②
「事故が起きるまで評価されない」
セキュリティは、何も起きないことが成果です。
しかしこれは裏を返すと、「平時は評価されにくい」ということでもあります。
- 何年も事故が起きなければ「何もしていない」と見られる
- 事故が起きた瞬間、「なぜ防げなかったのか」と責任を問われる
この構造が、情シスを過度に保守的にし、現場との対立を深める原因にもなっています。
中小企業の情シスあるある③
現場「便利にしたい」vs 情シス「守りたい」
現場は言います。
- 「個人のスマホの方が早い」
- 「無料ツールの方が使いやすい」
- 「今すぐ使いたいから申請は後で」
一方、情シスは考えます。
- データはどこに保存されるのか
- 退職者が出たら管理できるのか
- 情報漏洩時に説明できるのか
この価値観のズレこそが、セキュリティジレンマの正体です。
ジレンマを悪化させる「中小企業特有の事情」
中小企業では、
- IT専任人材が少ない
- 予算が限られている
- 経営層がITに詳しくない
といった事情が重なり、「理想的なセキュリティ設計」が難しくなります。
結果として、
- ルールはあるが守られていない
- 例外対応が常態化している
- 属人管理になっている
という状態に陥りやすくなります。
解決の鍵は「制限」ではなく「設計」
近年、注目されているのは
**「禁止するセキュリティ」から「前提を変えるセキュリティ」**への転換です。
例えば、
- 端末を完全に信用しない
- 社内・社外という境界に依存しない
- そもそも端末に情報を残さない
こうした考え方は、ゼロトラストという概念にも通じます。
重要なのは、
「使わせない」ではなく
「使っても事故になりにくい設計」を考えることです。
情シスは「現場の敵」ではなく「調整役」
情シスの役割は、
セキュリティを盾に業務を止めることではありません。
- 現場がなぜそれを使いたいのか
- どこが本当のリスクなのか
- どこまでなら許容できるのか
これを言語化し、経営と現場の間で落とし所を設計することが、これからの情シスに求められています。
まとめ
セキュリティジレンマは「失敗」ではなく「前提条件」
セキュリティジレンマは、
情シスの能力不足ではなく、構造的な問題です。
特に中小企業では、
「全部守る」「全部自由にする」
そのどちらも現実的ではありません。
だからこそ、
- 管理しすぎない
- 信頼しすぎない
- 事故を前提に設計する
この発想の転換が、情シスを楽にし、現場との対立を減らします。
情シスは孤独な部門になりがちですが、
本来は会社全体の業務を前に進めるためのパートナーです。
セキュリティと利便性、そのジレンマの中でバランスを取り続けること自体が、
これからの情シスの「価値」なのかもしれません。



